本書の著者袁清林は、『史記』平準書、『水経注』、宋梅尭臣の詩等の歴史資料を引用しながら、タクラマカン砂漠や内蒙古の砂漠化が進んだのは、「開墾」と「森林破壊」と「戦争」と「水利建設」という全くの人為がその要因であると指摘している。
 また、長江流域の洞庭湖が年々縮小しているのも、黄河が氾濫をくり返してきたのも、黄河下流の湖沼が消滅したのも、全ては人間のせいであると指摘している。
 「森林破壊」による「土砂の堆積」、「干拓」と「水利事業」による「水系の変化」、それは人間のせいでなくて何であろう。
 国家の政策が学問にも強く影響する中国にあって、国策をも、学問をも、そして思想をも、根底から問い直す著者の主張に驚く。 そしてその主張は説得力に富む。(訳者あとがき)
  中国の環境保護とその歴史
      袁清林著 久保卓哉訳
      
研文出版(山本書店出版部)  5775円(税込)
目次


  日本語版への序  袁清林
  第一章 序 論
    一  なぜ中国環境保護史を研究するのか
    二  中国の自然地理の特性とその歴史
    三  環境と環境保護
     (一)環境
     (二)環境問題
     (三)環境保護
     (四)環境科学
       1 環境科学とは何か
       2 古代に環境科学はなかったのか
第一編 古今の環境の変遷
  第二章 中国の原始人類の環境
    一 猿人の生活環境
    二 古人の生活環境
    三 新人の生活環境
    四 母系氏族社会盛期の環境
    五 五帝時代の環境
    六 夏、殷、周の環境
      まとめ
  第三章 森林の変遷
    一 東北と華北
     (一) 東北地区
     (二) 北京地区
    二 黄土高原
       1 秦嶺北面の森林
       2 山西省偏関の森林
       3 陰山の森林
    三 南方
     (一)寧紹地区
     (二)湘江下流地区
     (三)高州、廉州、雷州、瓊州地区
      まとめ
  第四章 有史期の水土流失
    一 黄土高原の水土流失
     (一)有史期初期の黄土高原
     (二)水土流失の激化 ― 河と渭河
     (三)黄土高原の水土流失の悪影響
       1 黄河の濁化と土砂堆積による氾濫
       2 都市の消滅と丘陵の平坦化
       3 海岸の堆積
    二 南方の水土流失
     (一)湘江下流地区
     (二)その他の地区
      まとめ
  第五章 砂漠化の歴史
    一 開墾が招く草原の砂漠化
          毛烏素砂漠
          統万城
          城川
    二 森林破壊が引き起こす砂漠化
          祁連山
    三 戦乱が砂漠化を加速
    四 水利建設が引き起こす砂漠化
          ロブノール
      まとめ
  第六章 有史期の湖沼の消滅と河道の変遷
    一 有史期の湖沼の消滅
     (一)干拓による湖沼の消滅
          芍陂
          鑑湖
     (二)水源断絶による湖沼の消滅
          奢延沢
          屠申沢
     (三)土砂の堆積による湖沼の消滅
    二 洞庭湖の縮小
    三 有史期の水系の変遷
    四 黄河水系の変遷
     (一) 黄河下流の流道の変遷
     (二) 黄河下流の湖沼の消滅
      まとめ
  第七章 有史期の気候の変遷と種の絶滅
    一 有史期の気温変動
    二 有史期の湿潤状況
    三 種の変遷と絶滅
     (一)植物種子の地域性の変遷
          竹
          柑橘類
          茘枝
     (二)動物分布の変遷と種の絶滅
       1 孔雀
       2 野生の象
       3 揚子江ワニと揚子江カワイルカ

      まとめ
  第八章 環境の変遷の歴史とその原因分析
    一 環境悪化の先触れと人類活動の影響
    二 歴史上の環境分期
     (一)環境保護の黄金時代 ― 先秦
     (二)第一次悪化時期 ― 秦、前漢
     (三)回復した時期 ― 後漢〜隋
     (四)第二次悪化時期 ― 唐〜元
     (五)深刻に悪化した時期 ― 明清以後
    三 人口増加と環境
      まとめ
第二編 古代の環境保護意識
  第九章 素朴な古代の生態学
    一 生態環境と生物
    二 生物の群居 
    三 生物間の相互関係
      まとめ
  第十章 先秦環境保護思想の源流
    一 「里革(りかく)断罟(だんこ)
の故事からみた先秦の生物資源保護
    二 生物資源を保護する思想
    三 管仲の保護思想
    四 孟軻の保護思想
    五 荀況の保護思想
      まとめ
  第十一章 秦以後の環境保護思想の発展
    一 漢代の保護思想
    二 唐代の環境管理
    三 宋代の生物資源に対する保護立法
    四 水土流失と湖を囲って田を作ることに対する認識
    五 明清の禁令緩和と開墾
      まとめ
  第十二章 環境と健康に関する古代の認識
    一 土と人体の特徴
    二 水と人体の健康
    三 有毒気体の人体への危害を防ぐ
      まとめ
第三編 古代の環境保護
  第十三章 環境保護制度
    一 虞衡の性質とその職責
    二 最初の虞官 伯益
    三 先秦の環境保護機構
    四 秦漢の少府と水衡都尉
    五 三国・両晋・南北朝の虞衡
    六 隋・唐・宋・遼・金・元の虞部
    七 明清の虞衡清吏司
      まとめ
  第十四章 環境保護法令
    一 先秦の法令
    二 中国最古の環境保護法
    三 秦代以後の環境保護法
      まとめ
  第十五章 植樹と造林
    一 植樹造林の伝統
    二 経済林木の植栽
    三 道路樹
    四 風景林と防護林
      まとめ
  第十六章 都市の水道と下水
    一 北京の水源問題
    二 西安の水源問題
    三 杭州の水源史話
    四 洛陽、開封、南京の水源
      (一)洛陽
      (二)開封
      (三)南京
    五 都市の汚水の排水
      まとめ
  第十七章 古代の国土と環境整備
    一 『禹貢』とその価値
    二 古代の国土整備
    三 土地の整備
    四 水利建設
    五 都市建設と交通
      まとめ
  第十八章  苑囿園池の保護
    一 苑囿の誕生と先秦時代での発展

    二 秦漢・三国・両晋・南北朝の苑囿
       1 秦
       2 漢
       3 三国時代
       4 西晋 東晋
       5 南北朝
    三 隋唐から明清の苑囿
       1 隋唐
       2 宋
       3 元
       4 明
       5 清
      まとめ
  第十九章  名勝古蹟の保護
    一 名山勝景
       (一)五岳
       (二)盧山
       (三)その他の名勝風景
    二 仏寺道観
       (一)神権と生物保護
       (二)仏寺聖地
          1 仏寺の保護作用
          2 四大仏教名山
       (三)道教の名山と道観
    三 祖廟、陵墓とその他の古蹟
       (一)陵墓
       (二)著名人の旧居
       (三)著名人活躍の地
      まとめ
  第二十章 環境をめぐる闘争
    一 塩鉄会議の論戦
    二 唐宋の野生生物保護闘争
    三 古代の森林保護闘争
    四 干拓造田の闘争
      まとめ
  注
 原著引用文献
  訳者あとがき
     イオニアの空
     地上で最も不要なもの

     開発と自然破壊
     砂漠を森林に
     二十一世紀の向かうところ
     袁清林さがし
     上海 学術書店 厳鐘麟
     中国環境報 高燕茜女史
     国土交通省への憤り
     八百里洞庭
       木簡と砂漠
     袁清林に初めて会う